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第122話 三年目

Aвтор: 灰猫さんきち
last update Последнее обновление: 2025-06-10 19:54:04

 つながりの村にとって三度目の春がやって来た。

 誕生日が早春の俺は、今年で二十一歳になった。

 十五歳の年に難破船で目覚めて早六年。

 ずいぶん遠くまで来たものだ。

 今年は村人たちが自由民になったので、個人所有の畑を振り分けている。

 とはいえ農業は人手がかかるもの。

 全てが村共同の畑だった去年と同じく、力を合わせて働いた。

 今年から初めて栽培する作物もいくつかある。

 去年末に王都パルティアで買ってきた種だ。

 キャベツ、赤カブ、白菜など。

 イザクの指導のもと、春蒔きの種が植えられていった。

 春は農業の始まりと同時に、家畜の出産期でもある。

 去年種付けした羊や豚たちが順次子供を産んだ。

 こうして数を増やしていって、肉や羊毛の収穫量を増やしたいものだ。

 それはそれとして、家畜であっても赤ちゃんはかわいい。

 将来的に肉にするとか今は考えたくないな。

 家畜係の村人も目を細めていた。

 そうそう、家畜だけじゃなく人間の赤ちゃんも生まれている。

 奴隷身分から解放されたおかげで、結婚の自由ができたからな。

 医者などいない辺境の村だが、レナ特製の体力回復ポーションがある。

 怪我や出血に関しては前世より死ににくいかもしれない。

 だからお産はだいたい問題なかった。

 食べ物がちゃんとあるので、産後の肥立ちも悪くない。

 村で生まれた赤ちゃんたちは、農作業をする親の背に背負われて元気に泣いている。

 日本の感覚からするとえらく雑な子育てだが、この世界の文明度ならこんなものなんだろうな。

 そんなこんなで三年目も順調と思っていたのだが。

 夏にちょっと不思議なことが起こった。

 夏になれば一部の野菜が収穫時を迎える。

 秋の収穫物もずいぶん育って、畑は青々とした作物でいっぱいになっていた。

 その中で例の赤カブの様子を見ていたら、どうも様子が違うのがまじっているのであ
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